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ワンランク上のおっさんをめざす、アラサーコピーライターの日記

映画『この世界の片隅に』を観た

まず「この世界の片隅に」を観ていない方に断っておくと、

この映画は、ジェットコースタームービーではない。

いわゆる、フリがしっかり効いていて、最後に大きなオチがあるとか、

伏線を張り巡らせて、最後に一気に回収するような展開はない。

(子どもの頃に出会った人物が、物語のクライマックスに出てくるといった

出来事はあるが、それはこの物語の軸になるものではないだろう。)

 

物語は第二次対戦前〜対戦中の広島市呉市が舞台。

主人公すずは、おっとりとしていて天然で、どこか憎めない性格。

絵を描くのが上手なことを除いては、どこにでもいる普通の少女。

その子の小学生時代から呉市の北條家に嫁ぐまで、物語はテンポよく進む。

 

すずの声を務める「のん」さんは、前評判通りすごかった。

広島の方言には詳しくないが、まったく違和感がないどころか、

ふつう、名の知れた俳優さんや女優さんが声優をやると、

どこかしらで、その俳優の顔がオーバーラップするものだが、

「のん」さんの場合はまったくそれがなかった。

完全に「すず」になっていた。

 

ストーリーに話を戻すと、

19歳になったすずは、

なんの考えもなしになんとなくお見合いをし、

なんとなく嫁ぐことになった。

北條家にお嫁に行き、最初は戸惑いもあった彼女だったが、

旦那周作を始めとする北條家の愛情に包まれ、

呉に居場所を見つける。

 

徐々に呉の生活に慣れ、周作を心から愛し始めたころに、

徐々に戦争という異質なものが日常を脅かし始める。

この、戦争が日常にグラデーションで入り込んでくる様が本当にリアルで、

戦争というとんでもない出来事ですら、

こんな音もなく日常を侵していくものなんだという発見があって

とても怖くなった。

まるでそれは進行性の癌が身体を蝕むかのように。

 

造船の街、呉は日本の戦況が日に日に悪化するとともに、

空襲も多くなっていく。

 

それでも、絶望ばかりではない。

 

空襲ばかりの毎日で防空壕に隠れる晴美(すずの義理の姪)は、

「空襲飽きたー」と一言。このセリフはとても印象的だった。

そうだよね、どんなに追いつめられてても、こういうこと言うよねと

素直に感情移入できた。

また、

棚田から呉港に浮かぶ戦艦をすずが描いていると憲兵に見つかり

尋問をされる。「軍の機密情報だー!」と怒鳴りちらす憲兵を前に、

北條の家族たちは、すずに何ができるん!と必死で笑いをこらえている。

そんなシーンにおいても、やっぱりバカらしいとどこかで憲兵をばかにしている

リアルがあった。

 

そして、

すずの矛盾に満ちた感情も魅力的だった。

ぼんやりしていて、裏表のない性格かと思いつつ、

実は大きな嘘を抱えていて、それに葛藤する。

ただのいい子としては描かれていない。(詳細は控えるが)

 

 

人間の捉え方とでもいうのだろうか。

こんなにも丁寧に、でも自然で、あたたかさも、黒さもしっかり捉えた

人間描写に、ただただ感服させられた。

 

 

この世界の片隅に」で描かれたことは、

どの世界にも通じる、普遍の人間描写だと思う。

 

 

ああ、なんてあたたかい映画を観たんだろう。